夏を夢見た絵描きの話



2025-02-08 08:14:43
文字サイズ
文字組
フォントゴシック体明朝体
350日の冬と15日の春
この世界に夏は来ないのか

絵描きの絵の具は白が五本、緑は一本
毎日白ばかり減ってゆく

ああ世界はこんなにも寒いのに
この世の外れに
男も女も裸で外を駆け回る(その)があるという

そこは一面が緑で
350日の夏と15日の秋しかないという
絵描きは緑の絵の具を使ってみたい
絵描きの道具とわずかな銭で
絵描きは南に向かったと

しかし歩けど歩けど
350日の冬と15日の春
この世界に夏は来ないのか

絵描きは歩き
380日の冬を越え93日の春を過ごし
やがて灼熱の大地へと辿り着く

そこは350日の夏と15日の秋はあったが
辺りは一面褐色だった
風が舞い形作る大地の模様(さま)
さながら故郷のようだった

絵描きの絵の具は褐色が五本、緑が一本
毎日褐色ばかり減ってゆく
絵描きは緑が使いたい

しかしそこは350日の夏と15日の秋
緑の園はどこにある

絵描きは道具とわずかな銭で
今度は東に向かったと
350日の春と15日の冬のある
緑の園を夢に見て

絵描きの旅はついに大陸の東端に辿り着く
ここから先は船旅だ
広い広い海を越えれば
夢にまで見た緑の園へ辿り着く

絵描きは船に乗り
100日を季節のない海の上で過ごした
絵描きの絵具は青が五本、緑は一本
毎日青ばかり減ってゆく
潮風に煽られうねる波の形は
やはり故郷さながらであった

やがて絵描きは悟る
この模様がこの世界の形なのだと
船の食料は残り僅か
緑の大地はどこにある
それでも絵描きは夢を見る
350日の春と15日の冬のある
緑の園を描く日を

いいね!