植物性愛(デンドロフィリア)(性倒錯/異常性愛/性描写/HL/サスペンス要素アリ)



2025-02-08 18:42:51
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 塚本カエデは近所の飲食店のホールスタッフとして働くごく普通の成人女性である。自宅から近いこともあり、毎日クローズ時間まで店に残り、深夜に徒歩で帰る生活をしていた。その日もカエデは深夜0時を回ったころ、仕事を終えて帰宅の途についていた。
 その夜は満月が煌々と照らす明るい夜で、カエデは夜風を楽しみながら歩いていた。季節は春。満開の夜桜が街灯と月明かりに照らされて、白く浮かび上がっている。ちらほらと桜の花びらが舞い始めていた。
 ふと、異音が聞こえてきた。ハアハアと、苦しげな息遣いだ。
 カエデは重病人が倒れているのかもしれない、と、音のする方角へ早足で近づいてみた。
 一人の男性が、桜の木に片手をついて、苦しそうに佇んでいた。駆け寄ろうとしたカエデだが、ふと違和感に気付く。男性の外套から伸びる脚はむき出しで、足元に布の塊が落ちていることから、男性は立小便をしているのではないかと思ったのである。
 だが、男性は動かない。ずっと苦しそうな息遣いをしながら、片手を桜の幹につけて佇んでいる。排尿に苦労する病気なのだろうか。
 すると、男性は突然「ああっ!」と苦しそうに呻いた。そして足元にあった箱からティッシュを引き出すと、股間を拭いているのか、ガサガサと音を立て、ゆっくりとこちらを向いた。
 目が合ってしまった。
 男性は「うわっ!」と小さく悲鳴を上げ、慌ててズボンを上げて足元のティッシュの箱を掴んだ。
 カエデは覗いていることに気づかれてしまったことで、急に身の危険を感じて逃げ出そうとした。
 「待って!」
 男はカエデを呼び止めた。
 「今見たことは、誰にも言わないでください」
 カエデは恐る恐る振り返り、「何をしていたんですか?体調悪いんですか?」と聞いた。
 「体調は……悪くないです。あの……。僕がここでこんなことをしていたことは、どうか秘密に」
 「秘密が守れなかったらどうするんですか?」
 男はしばらく黙り、絞り出すように言った。
 「あなたに、とても言いにくいことをします」
 カエデは震えあがり、「わかりました。今見たことは秘密にしておきます」と言って逃げ出した。男が尾行して自宅の場所を悟られてはかなわないので、自宅の方向とは全く逆方向に向かって走り出し、めちゃくちゃな道をたどって、自宅の玄関に飛び込み、鍵をかけた。
 カエデは男の追跡に怯える毎日を過ごすことになった。

 次の日の昼、カエデは出勤途中に、昨夜の男がいた桜の木を調べてみることにした。
 桜の木には、白くてドロッとした液体がかかっていた。
 「これって、精液?やだ、あの人、外で一人でエッチなことしてたんだ……」
 これは変態だ。露出狂というやつだろうか。カエデはいよいよ恐ろしくなって、この桜の木には近づかないことにした。
 しかし、すっかり男の存在を忘れかけていた5月のある日、再び男に遭遇してしまう。男は小川の土手でしゃがんで草花をもてあそんでいた。
 カエデは心臓が飛び出しそうなぐらい驚き、身を固くした。変質者だ。殺されるかもしれない。
 カエデは目だけで退路を探した。しかし、通過するか引き返すかのどちらかしかない。意を決してカエデは一目散に駆け出した。
 すると、男が足音と気配に気づき、顔を上げた。「あっ!」と声を上げ、立ち上がるのが視界の端に映った。怖い!カエデは全速力で逃げ出した。
 男は追ってこなかった。だが、また行き先を尾行されるかもしれないと、カエデは回り道をしなければならなくなった。
 あの変質者はおそらく近所だ。大変な変態が同じ町にいたものだ。カエデは引っ越しを検討し始めた。

 カエデが深夜、ごみ収集所に生活ごみを出しに行った日のことである。昼夜逆転生活を送るカエデは朝ゴミを出すことができないため、いつも深夜こっそりゴミを出しに行く。すると、ごみ収集所に人がいた。カエデはゴミ出しにうるさいご近所さんにつかまってしまったかと、ゴミ袋片手に進むことも引くこともできないで立ち止まってしまった。
 しかし、ご近所さんはカエデと同じように、深夜にゴミを出しに来たようだった。ゴミ収集所の箱にゴミ袋を入れると、その人はカエデの方向に歩いてきた。
 「こんばんは……」
 共犯者であることに安心して、カエデが声を掛けると、その人はあの変質者だった。お互いの顔が判別できると、二人は「あっ!」と声を漏らした。
 「あなたはあの時の…!」
 変質者が驚いてカエデに声を掛けてきた。カエデは恐怖で動けない。怯えている様子を感じた変質者は、慌ててカエデを怖がらせないように言葉をつないだ。
 「怖がらないでください。僕は何もしません。怪しい者じゃありません。ご近所さんだったんですね。ビックリしました……。大丈夫です。先日はすみませんでした……」
 そうは言っても、怪しい者が怪しくないということほど怪しいことはない。カエデは注意深く様子をうかがった。
 「あの、僕があんなことをしていることは、誰にも言わないでもらえましたか?」
 カエデはゆっくりと頷いた。
 「……よかった。僕の趣味を知っているのはあなただけなんです。今まで誰にもバレないようにしてきました……。あなたをどうこうする気はありません。本当に。実は、僕は、植物が好きなんです。植物にしか興味がなくて……。人間に興味がなくて……。植物が、好きなんです。恋愛対象として……。だから、あの夜は、恋人と思っている桜の木と、語り合っていただけなんです……」
 カエデはいつの間にか緊張を解いていた。静かに告白する男の様子を見るに、危険な変質者ではないように思えた。
 植物にしか興味がない。ということは、私をレイプしたり、暴行する趣味はないということ……?
 カエデは黙って男の告白を聴いた。
 「僕は、人間に興味がないことを今まで黙っていました。だからこんなおっさんになっても結婚していないし、いつも、植物を可愛がるふりをして、植物と愛を語り合ってきました。あんな汚い真似をできるのは、誰もが寝静まった夜しかできません。春は桜や菫、今の季節はツツジやサツキ、菖蒲もいいですね。季節が移ろうのに合わせて、付き合う恋人も変わります。僕は、本当に、植物にしか興味がなくて。だから、安心してください。危ないことはしません。でも、絶対に秘密にしていてほしいんです。お願いします」
 カエデはまた頷いた。恐る恐るではない。しっかり理解したという意思表示だ。
 「失礼ですが、あなたは植物、お好きですか?」
 「ひ、人並みには……」
 「そうですか。花はいいですよね。美しい。ぜひ、植物に優しくしてあげてください。あ、長い事引き留めてすみませんでした。それでは、僕はこれで。おやすみなさい」
 「おやすみなさい……」
 そういうと、男はゆっくりと立ち去った。
 それにしても衝撃的な性的嗜好を持った人がいるものだ。カエデも花は好きだが、性の対象として見たことは一度もない。カエデは男に興味を持った。もっと男の趣味の世界を聴いてみたい。異常性癖とは、どんな感じがするのだろう。

 その日から、カエデは男を警戒しなくなった。道ですれ違っても挨拶をするし、花が咲いていたら花の話をするようになった。
 いつの間にかお互いの住所も教えあい、部屋に招くようになった。外から見れば恋人同士のようだが、カエデも男も、お互いに興味はない。二人は植物への興味しか持っていなかった。
 男の名は蓼 樹といった。樹が植物に興味を持ち始めたのは、小学生のころだった。桜の花びらが道いっぱいに降り積もっている下校途中、桜の花びらのふんわりした踏み心地に興奮し、桜に恋をした。初恋だった。それからというもの、菖蒲の花びらの手触りから菖蒲に恋をし、季節の移り変わりに合わせて様々な花に恋をしてきた。性の対象にまで思いを膨らませたのは中学生の時だ。近所に生えている金魚草を盗み、自慰をして精液で金魚草を汚した。樹はその時、童貞を卒業したと思った。それからというもの、誰にもバレないように花を汚していった。花に精液を掛けることが最高の快感だった。ウツボカズラをオナホール代わりにして犯して枯らしたことも一度や二度ではない。
 「僕は、本当に植物が好きなんです。僕が男でなかったら、きっと植物をだめにすることなく、まっすぐ愛せたのかもしれないのに、僕はいつも、植物をひどい目に遭わせてしまう。それが心苦しくて、誰にも話せなくて……」
 カエデは素朴な疑問を口にした。
 「花って食べられないんですか?」
 即座に樹は答える。
 「植物には毒のあるものが多くて。食べてもいい花は食べますが、食べられない花は犯すしかありません」
 カエデは少しずつ植物に興味を持ち始めていたので、花の愛し方について考えるようになっていた。カエデは、自分だったらどうやって性欲を満たすだろうと考えていた。
 「スーパーにエディブルフラワーのパックが売っているじゃないですか。あれを食べることは花のためにもなるし、合法だと思うんですが」
 「もちろん!食べますよ。でも、一人の時しか食べられませんね。レストランに行って、エディブルフラワーの添えられた料理が出てくると、興奮して食事に注意がいかなくなって……ははは。だから、花を食べることはやめたんです。怪しまれるから、他のことで間に合わせようと思って」
 「我慢してます」という樹が可愛くなって、カエデはますます樹に興味を持った。
 「じゃあ、エディブルフラワーに精子を掛けたのを、私が食べたら、間接的に私とセックスしたことになりますね。どうですか?私たち、付き合いませんか?」
 カエデは思い切って樹を誘ってみた。樹は驚いた。今まで考えもしなかったが、そういう経路をたどれば、人間の女――カエデと恋人同士になることができるのだ。
 「す……すごくエッチなことをサラッと言うんですね」
 樹は耳まで赤面した。今までしてきたどんなプレイよりも興奮するシチュエーションだ。
 「じゃあ、してみましょう?私、食べてみたいです。樹さんの精子を掛けた、お花」
 二人はさっそくスーパーで千切りキャベツとエディブルフラワーを買ってきて、皿に盛りつけた。
 樹が薔薇の花の匂いを嗅ぎながらペニスをしごき、絶頂に達してサラダの上に精子を掛ける。
 「樹さんの精子って、植物みたいな匂いがするんですね。栗の花がこんな匂いでしたよね。樹さんって本当に植物みたいな人」
 カエデは初めて男性の精液の匂いを嗅いで、興奮した。早速エディブルフラワーをフォークで刺して、口に運ぶ。強烈な苦みと青臭さが口と鼻を襲った。だが、カエデは性的に興奮していたためか、不思議と嫌な印象は抱かなかった。苦みが強すぎるために味変としてウスターソースをかけると、ずいぶん食べやすくなったので、カエデはほどなくして完食した。
 「ごちそうさまでした。美味しかったです」
 その時、樹は生まれて初めて人間の女性も性的に興奮できることを感じた。自分の精子を掛けた花を美味しそうに食べる、カエデの口元が魅惑的で美しい。
 「カエデさん……!」
 樹はたまらずカエデの唇を奪った。人間の女性に口づけをしたのは、生まれて初めてだった。
 「カエデさん、僕は、植物を経由しないと人間に興奮できないですが、こういう方法でいいなら、僕と結婚してくれませんか?」
 カエデは「……はい。もちろん。樹さん」と、微笑んだ。

 やがて、樹とカエデは結婚した。だが、樹もカエデも、お互いを人間として純粋に愛することはどうしてもできなかった。人間として尊重すると、性的対象には見えない。性行為をするときは、ベッドに薔薇の花びらを散らすなどの工夫が必要だった。
 ある秋の日、公園には桜の落ち葉が降り積もり、清掃員に掃き集められて落ち葉の小山ができていた。
 「カエデさん!やった!落ち葉の山ができてますよ!」
 「本当だ!樹さん、飛び込んじゃいます?!」
 ワーッと子供のようにはしゃぎながら、二人は落ち葉の小山にダイブした。
 「気持ちいいーーー!!!カサカサ柔らかい!!」
 「ああ、最高!この季節は最高です!」
 落ち葉のベッドで、二人は子供のようにじゃれあった。せっかく清掃員が掃き集めた落ち葉をあたり一面に散らかしまくって。はしゃぎつかれた二人は落ち葉にうずもれながら、寝転んで秋の夕焼けを見上げた。
 「私、樹さんに出会えてよかった」
 「なんで?」
 「普通の男性だったら、きっとここまで楽しくなかったと思う」
 「僕も、カエデさんに出会えてよかった。僕は一生独身だと思っていたから、親を喜ばせることができた。感謝しています」
 二人はしばし沈黙すると、カエデがその沈黙を破った。
 「ねえ、樹さん。実は秘密にしていたんだけど」
 「うん?」
 「私、赤ちゃんできたよ」
 「ええ?!」
 樹は飛び起きた。
 「検査薬陽性だった。今度の休み、病院に一緒に行ってくれる?」
 「カエデさん……もちろんだよ。一緒に行こう。子供の名前は何がいいかな……」
 カエデはふっと笑った。
 「植物の名前はやめてね?」
 「なんで?」
 「性的虐待しそう」
 「ひどい!僕そこまで変態じゃないから!」
 夜道で出会った異常性癖の持ち主と目撃者。二人は今も奇妙な愛の形を抱えながら、傍目にはごく普通のおしどり夫婦として生活しているという話である。

END.

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